倍プッシュが投資やギャンブルで危険な理由

1ドルを賭けて負けたら次は2ドルを賭ける。2を賭けて負けたら次は4ドルを賭ける・・・

確率が1/2で当たると倍になる賭けで、勝つまで倍、倍と賭けていく方法を「倍プッシュ」と言います。(倍々プッシュとも言います。)

この賭け方はいずれ勝つ可能性が高いので一見とても有効な戦法に見えますが、実はまったく有効ではないです。有効だと錯覚してしまう賭け方なだけです。

そして、倍プッシュは投資の場でも存在するパラドックスです。

利益を上げる投資家を目指す人は、倍プッシュの原理はなぜ有効ではないのか、なぜ危険なのかを知っておく必要があります。

(この記事では、賭ける金額の単位をすべてドルとします。)

倍プッシュのやり方

1ドルを賭けて負けたら2ドルを賭ける。2ドルを賭けて負けたら4ドルを賭ける・・・

これを繰り返していると、資金がつきない限り、いずれは賭けに勝ちプラスになります。

当たる確率が約1/2で当たった時の報酬が約2倍のかけ方があるギャンブルは、この倍々プッシュ戦略が使えます。

日本の公営ギャンブルやパチンコ・パチスロなどでは「確率1/2で2倍の配当」という賭け方はできません。

なので、日本人ギャンブラーには倍々プッシュは使えないと思われるかもしれません。

しかし、倍々プッシュは少しだけ解釈を変えると、どんなギャンブルでも適用できます。マーケットに投資する場合にも適用できてしまいます。

 

「倍々プッシュ」の何が「倍」かと言うと、賭けるレートが倍という意味です。そして、実はこの「倍」は「3倍」でも「4倍」でも、何倍でもいいです。

確率が約1/3で当選時の配当が3倍の賭けがあれば、まずそこに1ドルを3回賭けます。

最初の2回の賭けて当たった場合は、その時点で止めればプラス収支です。3回目で当たった場合はプラスマイナス0になるので、また最初から同じことを繰り返します。

確率が約1/3で当選時の配当が3倍の賭けに1ドルを3回賭けて3回全部外れた場合は、その次は2ドルを3回賭けます。それも外れたら4ドルを3回賭けます。この繰り返しです。

同様に、確率が約1/4ので配当が4倍の賭けならば、1ドルを4回賭けて、負け続けた場合は、次に2ドルを4回賭けて、次は4ドルを4回賭けて・・・と繰り返せば、いずれ当たりいずれ収支はプラスになります。

 

つまり、倍々プッシュとは実際は「2倍・2倍」と賭ける必要はないです。

ここまでの説明で気付かれた方もいるかもしれませんが、要するに、倍々プッシュとはそれまで負けた分を次の賭けで取り戻せるだけ賭ける、というだけの話です。

今までの負け分を次の賭けで必ず取り戻せるだけ賭ける場合は、必要とする賭け額(資本)が倍倍(のように)になって行くわけです。

多少解釈を広げてしまいましたが、倍々プッシュとはそれまでの負け分を取り戻せるだけ賭け額を増やす(増資する)もので、その意味では、どんなマーケットにも適用できることになります。

倍プッシュはなぜ有効ではないのか

倍プッシュが有効ではない理由は2通りの説明方法があります。

ギャンブルの攻略としてみれば確率的(期待値的)な説明ができます。マーケットでの投資の場としては「リスク」の問題になります。

ギャンブルでは倍プッシュをしても期待値は変わらない

倍プッシュはトータルで勝つ確率を高める行為です。ですが、期待値(勝つ確率×勝った時の配当)は他の賭け方と一切変わっていません。

実は、ギャンブルでは勝率とトータル収支は関係ありません。ギャンブルでトータル収支と関係があるのは期待値です。

極論すると、公営ギャンブルであろうとパチンコ・パチスロであろうと、勝率を高めることは誰にでもいくらでもできます。

最初は少額から賭け始めて「少しでも収支がプラスになったら即止め、収支が一時的にでもプラスになるように賭け額を増やして行く」ようにすれば、どんな素人でも、その日その日の勝率は非常に高いものになります。

考えてみて下さい。公営ギャンブルならば、本命の単勝で倍々プッシュをすれば、いずれ収支がプラスになる瞬間が来るはずです。

パチンコ・パチスロならば、最初は1パチや5スロ(それ以下がればそれの方がいい)で波の荒くない機種を少し打つ。勝てば即止め。負けたならば、同じレートで波の荒い機種を打つかレートを高いコーナーへ移動する・・・

そうやって打っていれば、いずれは収支がプラスになる瞬間は来ます。

収支がプラスになった瞬間に、それ以上は絶対に打たないこと。それとギャンブル性の低いものから、少しずつギャンブル性の高いものへ移動して行けば、その人の勝率はとてつもなく高いものになるはずです。

ですが、このやり方で例え勝率が99%になったとしても、99日間で得られる勝ち額は、投資する金額に対しては大きくないです。少しでもプラスになったら即止めするわけなので、大きく勝てる日はありません。

そして、100日に1回訪れる負ける日の負け額は甚大です。勝つまでどんどんギャンブル性の高い賭け方を繰り返して行き、その全てで負ける日だからです。

99日分の価値額が吹っ飛んでしまうことになります。

 

 

ギャンブルのトータル収支は期待値で決まります。「勝率×配当=期待値」になり、期待値がプラスにならない限り、トータル収支がプラスになることはありません。

ギャンブルでの倍々プッシュは、勝率を極限まで上げる代わりに、配当が著しく下がってしまう賭け方です。これだと、期待値は上がりもせず、下がりもしません。

ギャンブルで倍々プッシュをすることは、胴元が決めたマイナスの期待値の手のひらの上で踊らされているだけです。

 

マーケットで倍プッシュをするとリスクが無限に高くなる

マーケットではリスクを管理することが最重要です。

破産したらマーケットから退場するしかありません。退場したら稼げません。

これは投資で成功した先人たちのほとんどが言っていることです。

ジョージソロスの「まず生き残れ。儲けるのはそれからだ。」という言葉が有名です。

 

マーケットで倍プッシュすることは、ある意味で「損切り」の真逆です。

何があっても絶対に損切りしない行為が、マーケットでの倍プッシュに当たります。

こういうと、株などの「塩漬け」がこれに当たるように思われるかもしれませんが、そうではないです。

「塩漬け」は、最悪でも買った株の価格の分しか損はしません。倍プッシュよりも遥かにマシな行為です。

「ナンピン」もまた倍プッシュとは話が違います。こちらは後述します。

マーケットでの倍プッシュ定義は、「あの株で負けた分をこの株で取り戻してやろう」だとか、「FXで負けた分を仮想通貨で取り戻してやろう」だとか、そういった類のことです。

マーケットでの倍プッシュは、自己の資金内で倍々に賭けをしている状態です。

破産は自分の資産の問題です。マーケットの問題ではありません。

どんなにマーケットの状態が良かろうが、どんなに有効な投資方法を実践していようが、自己の資金に対して不当な投資(投機)を行っていれば、いずれ破産します。

投資でも倍プッシュをしていれば勝率は高くなりますが、いずれ破産します。

倍プッシュの真の危険性

倍プッシュをても期待値は上がりません。そして、自己の資金内の破産に近付きます。

なので、倍プッシュはギャンブルでも投資でも、有用なものではありません。

さらに、倍プッシュには、現実的・数字的な危険性以上に、心理的な危険性が含まれています。

人は心理的に危険を感じた行為で得た成果を過大評価する傾向があります。

 

多くの人がトータルで負けると分かっているギャンブルをしてしまうのは、このことと関係があります。

法律的に禁じられていることを、「スリル」を楽しむだけに行う人もいます。お金に困っていなくても、万引きする人間はいます。

いつも時間ギリギリで急いで運転をしていると、制限速度以上出す危険な運転自体が好きになってしまう場合もあるかもしれません。

これらと同様に、倍プッシュで賭ける金額を倍々と増やしていくとこは、エキサイティングであり、同時に負け続けた時の恐怖も感じられます。

倍プッシュで得られた投資額に対するとても小さい利益は、多くの人にとってその金額以上の価値が感じられてしまいます。これは不当な錯覚です。

この錯覚はギャンブル依存症を産む可能性があり、投資の場では破産に向かう可能性のあるものです。

 

また、マーケットでの戦略は、どんなに有効なものでも短期間で確実に成果の出るものはないです。

せっかく有効な投資戦略を取っていたとしても、適切な期間で評価を行わずに、その投資戦略に不満を持ってしまう投資家もいます。

その場合に、不当な錯覚によって魅力的に見えてしまうのが、倍プッシュです。

倍プッシュは投資戦略いかんに関わらず、いつでも行うことができます。投資戦略と複合しても行えます。

マーケットでは、いつ如何なる時でも、今やっている投資戦略を破棄して、別の投資戦略を倍の資金で行えば、倍プッシュをすることができます。

常に倍プッシュの誘惑にさらされた状態で、適切な投資戦略と投資家としての姿勢を保つことは難しいかもしれません。

倍プッシュには、理論や実績に裏付けられた有用な投資戦略を台無しにしてしまう影響力が含まれています。

 

倍プッシュとナンピンの違い

投資対象の価値が下がった場合に、それに応じてその対象を買い増していく戦略をナンピンといいます。

この行為は倍プッシュとは明らかに違います。

倍プッシュは単純に同じ勝率の賭け(投資では同じ戦略と同じ条件)を、賭け額(資金)を増やして繰り返し行う行為です。

それに対してナンピンは、買い増す時の対象の値段やマーケット状況は変わっています。

仮に、投資対象の絶対的な価値が変わらずに、何等かの不遇な理由で対象の値が下がっているのならば、買い始めた当初より安い値で同じものが買えるわけなので、ナンピンはとても有効な戦略です。

もちろん、投資対象の絶対的な価値が下がったから、その値が下がった可能性もあります。

つまり、ナンピンは状況によって有用な戦略なのか、ただの無茶なのかが決まってきます。

倍プッシュはいつでもただの無茶です。

ナンピンはマーケットの状況に合わせて適切に行える可能性のある戦略ですが、倍プッシュはマーケットの状況とはまったく関係なく、投資家個人のふところ具合のみによって生まれる錯覚です。

マーケットでは、倍プッシュとナンピンを正確に区別する必要があります。

 

倍プッシュの錯覚を打ち破る方法

ギャンブルをする場合は、倍プッシュの錯覚によって常にギャンブル依存症に陥る危険性があります。

また投資を行う場合は、倍プッシュの錯覚の影響から正当な投資戦略を見失ってしまったり、自己の資金を管理できなくなり破産へ向かってしまう可能性があります。

僕は、ギャンブルや相場には、このくらい強く倍プッシュの錯覚の影響があると感じています。

とても強い影響なので、簡単に倍プッシュの錯覚を打ち破る方法はありません。

以下に、倍プッシュの錯覚を弱める方法をいくつか紹介します。ですが、以下の方法で確実に倍プッシュの錯覚を排除できるわけではありません。参考までに読んでいただければ幸いです。

 

まず投資金額の大小による錯覚を打ち破る

ギャンブルで勝ったり、投資が成功して資金が増えた場合に、「もっと賭けて(投資して)おけば良かったのに!」と悔しがる人がいます。

実際に悔しいでしょう。僕もそういった悔しがり方をいくらでも経験しています。

ですが、まずこれが重大な錯覚です。これが倍プッシュの錯覚につながる基本的な錯覚です。

なぜ、このことが錯覚だと言えるかというと、「さも可能だったように感じる」からです。

現実には、何等かの理由や情報によって賭ける(投資する)金額は賭ける前に決まっています。

賭ける時点で多く賭けた方がいいという情報が無かったのですから、多く賭けられるわけはないのです。

むしろ、まだ結果が分からないことの先を予想しているだけの時点で、特別な情報も無しに多額を賭けたり投資したりするのは無謀なことです。その時点では無謀なことはできなかったはずです。

その原理ならば、何も当たった時だけ「もっと賭けておけばよかった」のではなく、外れた時にも「別の物に賭けておけばよかった」ともなりますし、「賭けなどしなければよかった」ともなります。

結果論は全てにおいて錯覚です。

結果論は全て錯覚なのですが、結果論の中にも巧妙なものと露骨なものがあります。

露骨な結果論は錯覚だと気づける人は多いですが、巧妙な結果論はそれがなかなか錯覚だと気づけません。

 

当たった時だけ「もっと賭けておけば良かったのに!」と思えることが錯覚だと気づければ、賭ける(投資する)金額の大小を上手く操って負け戦を勝ち戦に転じることができるであろう!ということが錯覚だということも気づけます。

倍プッシュは、賭け額(投資額)を倍・倍と操ることによってマーケットの状態や戦略を無視して勝とうとする行為です。

本質的に勝てる戦略を実行していなければ、その賭け額(投資額)をどのように操ったとしても意味のないこと(期待値は変わらないこと)だと気づけるかもしれません。

 

数字的な説明で倍々プッシュの錯覚を打ち破る

倍プッシュの錯覚について、数学的な説明を聞けば納得ができるかもしれません。

1/2の確率で当選し、2倍の配当が得られる賭けを考えてみます。

1回目の賭け(投資)で1ドルを賭けて、当たったら即止め。外れたら次は2ドル賭け、当たったらやはり即止め。さらに外れたら、次は4ドル賭けて・・・

倍プッシュなので勝つまで賭けを続けます。つまり、勝った賭けをした回数-1回目まで負け続けています。

マイナスの期待値に関しては全敗の場合のみを考えれば良いです。

 

1回目に勝った場合の配当は2ドルで、累積投資額は1ドルです。

2回目に勝った場合の配当は4ドルで、累積投資額は1+2=3ドルです。

3回目に勝った場合の配当は8ドルで、累積投資額は1+2+4=7ドルです。

4回目に勝った場合の配当は16ドルで、累積投資額は1+2+4+8=15ドルです。

5回目に勝った場合の配当は32ドルで、累積投資額は1+2+4+8+16=31ドルです。

・・・・

つまり、何回目に勝ったとしても、勝ち額(配当-累積投資額)は1ドルです。

次に倍プッシュは負け続ける限り続きます。

1回目の賭けで勝って終わる(倍プッシュ成功)確率は1/2=50%

2回目の賭けまでに勝って終わる(倍プッシュ成功)確率は1-1/2/2=3/4=75%

3回目の賭けまでに勝って終わる(倍プッシュ成功)確率は1-1/2/2/2=7/8=87.5%

4回目の賭けまでに勝って終わる(倍プッシュ成功)確率は1-1/2/2/2/2=15/16=93.75%

5回目の賭けまでに勝って終わる(倍プッシュ成功)確率は1-1/2/2/2/2/2=31/32=96.875%

・・・

と、倍プッシュは繰り返せば繰り返しただけ、トータルで(たった)1ドル勝てる可能性が100%に近付いていきます。

そして、繰り返せば繰り返すほど、倍プッシュ失敗=全敗する可能性は減りますが、全敗した時の被害額は大きくなります。

どんな人でもいつかは資金がつきます。別に資金がつきなかったとしても、恐くてそれ以上の賭けはできなくなるかもしれません。

1回目で資金がつきて倍プッシュ失敗だと1ドルの損失

2回目で資金がつきて倍プッシュ失敗だと1+2=3ドルの損失

3回目で資金がつきて倍プッシュ失敗だと1+2+4=7ドルの損失

4回目で資金がつきて倍プッシュ失敗だと1+2+4+8=15ドルの損失

5回目で資金がつきて倍プッシュ失敗だと1+2+4+8+16=31ドルの損失

・・・・

結論として、倍プッシュは繰り返せば繰り返すほど勝率は高くなります。

ですが、倍プッシュは繰り返せば繰り返すほど、資金がつきて退場しなければならない場合の損失が大きくなります。

得られる勝ち額は常に一定です。

これはどういうことか?

要するに、倍プッシュはギャンブル(や投資)の戦略として、ひたすら勝率のみを引き上げた戦略、ということになります。

勝率を極限まで引き上げた結果、配当とリスクは最悪になっています。

(勝つ確率×配当-負ける確率×損失)という式で表される期待値は、何回倍プッシュしようと一定です。まったく賭けをしなくても同じです。

逆に期待値が一定で繰り返し行われるギャンブルや投資が、倍プッシュの特徴でもあります。

 

まとめ

倍プッシュはギャンブルや投資の戦略としては、期待値がまったく変わらない意味のない戦略です。

犬が自分のしっぽが気になって、その場でクルクル回っているような状態です。

クルクル回るだけならば害はないのでは?と思われるかもしれませんが、僕は害は大きいと思います。

意味のない行動は意味のある行動の邪魔になります。

犬は意味のない行動によって体力を消耗しますし、自然界に生きていたら他の生物に対して無防備になってしまいます。

人間に飼われている犬の場合でも、自分のしっぽに向かってクルクル回る行為はしつけの邪魔になりますし、悪い癖として止めさせられる場合が多いです。

 

す、すいません、少し話が逸れました・・・

とにかく、投資家にとって重要なのは本質的な投資戦略です。

本質的な(期待値的な)投資戦略の目を曇らせてしまう倍プッシュのような行為は、投資家にとっては害になり得るものということになります。

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